男性の産後うつとは?父親の割合・サイン・夫婦でできること
赤ちゃんが生まれてから、夫の様子がいつもと違う。あるいは、自分自身が眠れない、気持ちが重い、家に帰るのがつらい。そんなとき「産後うつは母親のもの」と思い込んでいると、気づくのが遅れてしまいます。実は男性の産後うつは、国内外の研究で一定の割合で報告されています。ひとりで我慢せず、早めに誰かに話すことが、いちばんの近道です。
この記事は、父親が主役です。男性の産後うつの割合、気づきたいサイン、原因、本人にできること、妻・パートナーにできること、話し方の例、相談先をまとめました。なお、この記事は診断をするものではなく、気になるときは医療機関や自治体の窓口に相談する前提で読んでください。
この記事でわかること
- 男性の産後うつの割合(国立成育医療研究センターなどの研究)
- 男性の産後うつの症状として気づきたいサインと、原因
- 本人と、妻・パートナーそれぞれができること
- 夫婦で話すときの言い方の例と、相談先
男性の産後うつはある?父親の産後うつの割合
産後に気持ちが沈むのは、母親だけではありません。父親にも起こりうることが、研究でわかってきています。
国立成育医療研究センターの調査(2016年データ)
国立成育医療研究センターは2020年8月、厚生労働省の国民生活基礎調査(2016年)のデータを使った分析を発表しました。対象は、生後1歳未満の子どもがいるふたり親家庭3,514世帯です。心理的なストレスの程度を測る質問票「K6」で、中等度以上の精神的な不調のリスクありと判定された割合は、産後1年間で父親が11.0%、母親が10.8%でした。ほぼ同じ水準です。
また、夫婦のどちらか一方がリスクありと判定された世帯は15.1%、夫婦の両方が同時期にリスクありと判定された世帯は3.4%でした。論文は Takehara K, Suto M, Kato T. Scientific Reports 2020; 10: 13770 です。
ここで大切な点があります。K6は不調のリスクを調べる質問票で、うつ病かどうかを診断するものではありません。「11.0%の父親がうつ病」という意味ではなく、「しんどさが強めに出ている人がこれくらいいた」という数字です。詳しくは国立成育医療研究センターの発表資料(2020年8月27日)で読めます。
海外・国内のまとめ研究でも約1割
複数の研究をまとめて分析した論文でも、似た傾向です。
- 2010年の Paulson と Bazemore による分析(JAMA 2010; 303: 1961-1969)では、妊娠期から産後1年までの父親のうつは、研究全体で約10%(10.4%)と報告され、産後3〜6か月でやや高い傾向がありました
- 日本人男性を対象にした Tokumitsu らの分析(Annals of General Psychiatry 2020; 19: 65)では、周産期のうつは全体でおよそ10%、産後3〜6か月が13.2%と、この時期にピークが見られました。また、産後のうつの割合は男女で有意な差がなかったとされています
研究ごとに調べ方や対象が違うため、数字には幅があります。それでも「父親の産後うつは、まれではない」という方向は、複数の研究で共通しています。
いつ起こる?いつまで続く?ピークの目安
時期については、産後3〜6か月ごろにやや高くなる傾向を示した研究があります(上の Paulson らと Tokumitsu らの分析)。ただ、国立成育医療研究センターの分析では特定の時期に偏りは目立たず、産後1年のあいだ、いつでも起こりうると考えるのが安全です。
いつまで続くかは人それぞれで、一律の期間を示した公的な情報は確認できませんでした。「そのうち治まるはず」と待ちすぎず、つらさが2週間以上続くときは早めに相談してください。なお「育児うつ」と呼ばれることもありますが、これも医学的な診断名ではなく、育児の時期に起こる気分の落ち込みを指す一般的な言い方です。
男性の産後うつの症状は?気づきたいサイン
男性の産後うつの症状は、基本的には一般的なうつ状態と同じです。ただ、本人も周りも「疲れているだけ」と見過ごしやすい面があります。
気分の落ち込み以外の形で出ることも
一般的なうつ状態では、次のようなことが2週間以上続き、日常生活に支障が出ます。
- 気分の落ち込みが続く、何をしても楽しいと感じない
- 眠れない、または寝すぎてしまう
- 食欲がない、または食べすぎてしまう
- 疲れやすい、集中できない、仕事のミスが増える
- 自分を責める、自分には価値がないと感じる
これに加えて、海外の研究や医療者の解説では、男性の場合は落ち込みよりも、イライラや怒りっぽさ、お酒の量の増加、仕事に没頭して家にいる時間を避けるといった形で目立つことがあると言われています。赤ちゃんへの愛情をうまく感じられない、不安が強い、といった訴えもあります。
ただし、これらは日本の公的機関が確立した基準として示しているものではありません。また、イライラや飲酒があるからうつだ、と決められるものでもありません。「いつもの本人と比べて、変化が続いているか」が目安になります。
「自分は大丈夫」と思いやすい理由
産後うつはホルモンの変化と結びつけて語られやすいため、男性は「自分には関係ない」と感じがちです。さらに、家計を支える立場として弱音を吐きにくい、という空気もあります。そのぶん、不調に気づく機会が少なく、相談までの時間が長くなる傾向があります。
簡単な振り返り(診断ではありません)
次の項目に、この2週間以上ほぼ毎日当てはまるものがあるか、見てみてください。
- 以前は楽しめたことが楽しくない
- 寝つけない、夜中や早朝に目が覚める
- 家に帰るのが億劫、または仕事から帰りたくない
- 小さなことでカッとなってしまう
- 自分は父親失格だと思う
当てはまるものが多いとき、またはつらさが強いときは、様子を見すぎず、医療機関や後述の窓口に相談してください。これは診断ではありません。うつ病かどうかを判断できるのは医師だけです。
男性の産後うつの原因:何が重なりやすい?
原因はひとつではなく、いくつかのことが同時に重なって起こると考えられています。誰かの努力不足や気持ちの弱さが原因ではありません。
睡眠不足と長時間労働
先ほどの国立成育医療研究センターの分析では、父親の長時間労働や睡眠不足が、父親が不調のリスクありと判定されることと関連していました。また、夫婦が同時期にリスクありとなる世帯では、母親の睡眠不足や子どもが生後6〜12か月であることも関連していました。いずれも「関連が示唆された」という段階で、原因と断定されたわけではありません。
役割の変化と、仕事との両立
「夫」から「父親」へ。家計の責任、育児の分担、自由な時間の減少と、短い期間に生活が大きく変わります。仕事と育児の両方を求められ、どちらも中途半端に感じてしまう人もいます。
妻の産後うつとの関連
Paulson らの分析では、父親のうつと母親のうつには、中くらいの強さの正の相関がありました。夫婦の一方がつらいと、もう一方もつらくなりやすい、ということです。ただし、どちらが原因でどちらが結果かは、この研究だけでは言えません。だからこそ、個人ではなく夫婦や家族を単位で支える考え方が大切だとされています。
父親(パパ)本人ができること
つらいときに、気合で乗り切ろうとしないでください。小さなことから始められます。
まず睡眠と休む時間を守る
睡眠は、気持ちの土台です。夜間の授乳やおむつ替えを夫婦で分担できるなら、まとまって眠れる日をつくる。難しければ、休日に数時間でも横になる時間を確保する。家事の完璧さは下げて構いません。
職場に伝える・制度を使う
産後の働き方は、会社の制度で調整できる場合があります。育児休業のほか、時間外労働の制限などがあるため、会社の人事や労務の窓口に相談してみてください。
ひとりで抱えず、言葉にする
信頼できる人に「最近眠れなくて、気持ちが沈んでいる」と伝えてみてください。相手は妻でも、友人でも、職場の産業医や保健師でもかまいません。話すだけでも、頭の中が整理されます。2週間以上つらさが続くときは、心療内科や精神科などの医療機関に相談する選択肢があります。
夫が産後うつかもしれないとき、妻・パートナーができること
「夫が最近おかしい」と気づいた側も、産後で余裕がない時期です。ひとりで背負わなくて大丈夫です。
責めずに、事実を伝える
「やる気がない」「甘えている」と受け取ると、夫婦の溝が深まりやすくなります。変化を見たまま、やさしく伝えるのがポイントです。たとえば「最近、ごはんを食べる量が減って、夜もあまり眠れていないみたい。心配だよ」と伝えてみる。
受診や相談のハードルを下げる
「病院に行って」と迫ると、反発されることがあります。「いっしょに保健センターの相談に行ってみない?」「眠れないことだけでも、かかりつけの先生に話してみない?」と、小さな一歩を提案してみてください。予約や下調べを代わりに引き受けるのも助けになります。
自分のことも守る
パートナーの不調を支えるのは、とても消耗します。自分の睡眠と休息も確保してください。ふたりのどちらも限界に近いときは、家族や自治体の産後ケア、保健師への相談など、外の力を借りることが大切です。
夫婦で話すときの言い方の例
話すタイミングは、赤ちゃんが寝ていて、ふたりとも落ち着いているときが向いています。疲れ切った夜中や、言い争いの最中は避けましょう。
本人(夫)から伝えるとき
- たとえば「最近、夜中に目が覚めて、気持ちが重い。ちゃんと言えてなくてごめん。少し聞いてほしい」と伝えてみる
- たとえば「仕事から帰ると、イライラしてしまう自分がいやになる。一度、相談に行ってみたい」と伝えてみる
妻・パートナーから伝えるとき
- たとえば「あなたのことが心配なんだ。責めたいんじゃなくて、いっしょに考えたい」と伝えてみる
- たとえば「ここ数週間、笑顔が減った気がする。ふたりで相談できるところを探してみない?」と伝えてみる
返事がそっけなくても、すぐには結論を出さなくて大丈夫です。「話せるときに、また聞かせてね」と余白を残すことで、次の会話につながります。
育児のやり方の違いが、ふたりの余裕のなさに重なっていることもあります。その場合は子育ての方針が夫婦で違うときも、あわせて読んでみてください。
なお、暴力や暴言、行動の強い制限があるなど、安全を脅かされていると感じる場合は、話し合いよりも安全の確保が先です。DV相談ナビ(#8008)や、内閣府のDV相談+(プラス)(0120-279-889、24時間・無料)などの公的窓口に相談してください。
男性の産後うつの相談先
相談先は複数あります。どこか一つに決めなくて大丈夫で、話しやすい窓口から使ってください。
自治体の窓口・医療機関
- お住まいの市区町村の保健センター、こども家庭センター(旧・子育て世代包括支援センター)。母親だけでなく、父親からの相談を受け付けている自治体もあります。受付の対象や時間は自治体ごとに違うため、電話で確認してください
- 都道府県・政令指定都市の精神保健福祉センター。心の健康の相談に応じ、医療機関の情報も案内してくれます
- 医療機関(心療内科、精神科など)。眠れない、気分の落ち込みが2週間以上続くなどのときは受診を考えてください。産婦人科やかかりつけ医に、まず話すという方法もあります
- カップルカウンセリングや、心理の専門家(公認心理師など)。気持ちの整理や、夫婦での話し合いの手伝いをしてくれます。診断や薬の処方はできないため、つらさが強いときは医療機関とあわせて検討してください
いますぐ助けが必要なとき
「消えてしまいたい」「死にたい」という気持ちがあるとき、またはそのような考えが頭から離れないときは、ひとりで耐えず、いますぐ相談してください。命に危険が迫っているときは、迷わず110番か119番に連絡してください。
厚生労働省の「まもろうよ こころ」には、次のような電話相談が載っています(2026年11月時点で確認)。
- よりそいホットライン:0120-279-338(無料・24時間)
- #いのちSOS:0120-061-338(無料・24時間)
- いのちの電話:0120-783-556(無料・毎日16時〜21時、毎月10日は朝8時から翌朝8時)
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556(通話料がかかります。都道府県・政令指定都市の窓口につながり、受付時間は地域で異なります)
LINEなどのチャット相談も、同じページで案内されています。声に出すのがつらいときは、文字での相談も選べます。
よくある質問
Q. 男性の産後うつは「甘え」ですか?
甘えではありません。睡眠不足、長時間労働、役割の変化など、複数のことが重なって起こりうる心の不調です。気持ちや努力で何とかしようとせず、休む・相談する対応を取ってください。
Q. 男性の産後うつはいつごろ起こりやすいですか?
国立成育医療研究センターの分析では、産後1年間のなかで、特に頻度が高くなる時期は目立ちませんでした。一方、日本人男性を対象にした Tokumitsu らの分析では、産後3〜6か月でやや高い傾向がありました。研究によって違うため、「この時期だけ注意」とは言い切れず、1年を通して気にかけるのが安心です。
Q. 育児ノイローゼと男性の産後うつは違うのですか?
「育児ノイローゼ」は医学的な診断名ではなく、育児による強い疲れや不安を指す一般的な言い方です。実際にうつ状態なのか、疲労やストレスが強い状態なのかは、医師でないと判断できません。「育児うつ」という呼び方も同じで、診断名ではありません。名前にかかわらず、つらさが続くときは相談してください。
Q. 男性の産後うつは何科に行けばよいですか?
心療内科や精神科が一般的です。どこに行けばよいかわからないときは、市区町村の保健センターや精神保健福祉センターに聞くと、案内してもらえます。
Q. 妻が産後うつのとき、夫もうつになりやすいのですか?
研究では、父親と母親のうつには中くらいの正の相関があるとされています。ただし、必ずそうなるという意味ではありません。どちらかがつらいときは、もう一方も一緒に気にかけ、早めに外の支援を使うことが大切です。
Q. 夫の産後うつを疑うとき、妻はまず何をすればよいですか?
責めずに、見たままの変化を伝えることから始めてください。そのうえで、保健センターの相談などを「いっしょに行ってみない?」と提案します。命の危険を感じるほど深刻な様子なら、すぐに「いますぐ助けが必要なとき」の窓口や110番、119番に連絡してください。
まとめ
- 男性の産後うつは、まれではありません。国立成育医療研究センターの2016年データの分析では、産後1年間に不調のリスクありと判定された父親は11.0%で、母親(10.8%)とほぼ同水準でした
- 原因は、睡眠不足、長時間労働、役割の変化、妻の不調との関連など、いくつかが重なります。本人の弱さや「甘え」ではありません
- ひとりで抱えず、保健センター、精神保健福祉センター、医療機関などに早めに相談してください。「死にたい」と思うほどつらいときは、まもろうよ こころの窓口や110番・119番へ
父親も、赤ちゃんが生まれたばかりの、一人の「新米の親」です。しんどさを言葉にすることは、弱さではなく、家族を守る大切な一歩です。