不妊治療のやめどきは?迷ったときの判断材料と話し合い方
「いつまで続けるのか、やめどきがわからない」「やめたいと思う自分は、あきらめの早い人間なのだろうか」。不妊治療を続けるなかで、そう考えて立ち止まる夫婦は少なくありません。
先にお伝えすると、不妊治療のやめどきに、全員に当てはまる正解はありません。年齢や治療の成績は大切な判断材料ですが、体力、お金、仕事、ふたりの気持ちも含めて、ふたりが「ここまでやった」と納得できる形を探していくことになります。この記事では、その判断材料の整理のしかたと、ふたりで話し合う進め方、そして区切りをつけたあとの気持ちについてまとめます。続けるか、やめるかを、こちらから勧めることはしません。
この記事でわかること
- 不妊治療のやめどきを考えるときの判断材料(年齢と成績の目安を含む)
- 不妊治療のやめ時について、ふたりで話し合うときの進め方と言い方の例
- 休む、ステップを変える、終える、という区切りのつけ方
- 治療を終えたあとの喪失感との付き合い方と、相談先
不妊治療のやめどきで迷うのは、ごく自然なこと
やめどきは、考えること自体がつらいテーマです。迷うのは、それだけ真剣に向き合ってきた証拠でもあります。
栃木県の相談案内では、治療を途中でやめる人も、納得がいくまで続ける人もいて、迷ったり気持ちが揺れたりするのは当然のこと、と説明されています。続けても、やめても、ふたりにとって納得のいく決断だったと思えることが大切だとされています。
「やめたい」と「続けたい」が同じ日に入れ替わることもあります。どちらかの気持ちが本物で、どちらかが偽物ということはありません。気持ちが揺れている今の状態のまま、ひとつずつ整理していけば大丈夫です。
不妊治療のやめどきを考える判断材料
やめどきは、ひとつの基準では決まりません。ここでは、よく話題になる材料を並べます。どれが重いかは、夫婦によって違います。
年齢と治療成績の目安
日本産科婦人科学会の倫理委員会が、全国の施設から集めた体外受精などの生殖補助医療(ART)の登録データを、2022年の報告としてまとめています。2022年の治療分(2023年11月末時点の集計)では、登録された治療周期は543,630件、生まれた赤ちゃんは77,206人でした。
このデータで、治療1回(登録された1周期)あたりの出産に至った割合は、女性の年齢別にだいたい次のとおりです。
- 35歳: 19.8%(流産の割合 21.5%)
- 40歳: 10.8%(流産の割合 32.6%)
- 42歳: 5.4%(流産の割合 43.2%)
- 45歳: 1.5%(流産の割合 57.1%)
年齢が上がると、妊娠・出産に至る割合は下がり、流産の割合は上がっていきます。ただし、これは全国の治療の平均です。ひとりひとりの見通しは、これまでの治療経過、卵巣の状態、パートナーの状態などで変わります。「42歳だから確率はこれだけ」と、自分たちの数字として受け取りすぎないようにしてください。具体的な見通しは、主治医に「私たちの場合はどうですか」と聞くのがいちばん確かです。
保険診療の年齢・回数の上限
2022年4月から、体外受精などは保険診療になっています。こども家庭庁の案内では、治療開始時の女性の年齢が43歳未満であることが条件で、回数は初めての治療開始時の年齢が40歳未満なら通算6回まで、40歳以上43歳未満なら通算3回まで(1子ごと)とされています。区切りを考える材料のひとつとして、頭に入れておくと話しやすくなります。
からだ・こころの負担
通院、注射、採卵、結果を待つ時間、毎月の期待と落胆の繰り返しは、思っている以上に心とからだを消耗させます。「眠れない」「何も楽しめない」「消えてしまいたい」と感じるほどつらいときは、治療の続け方を決める前に、まず心の状態を診てもらうことを優先してください。産婦人科や心療内科、精神科、自治体の窓口に相談できます。
お金・仕事・暮らし
費用、通院のための休み、職場への伝え方、貯金、住まいなど、暮らしの面も大切な材料です。「いくらまで」「いつまで」を決めておくと、気持ちのうえで少し楽になる人もいます。
ふたりの人生をどう描きたいか
子どもがいる暮らし、いない暮らし、特別養子縁組など別の形で家族をつくる暮らし。それぞれに、ふたりの希望や不安があるはずです。治療の成績だけでなく、「どんな毎日を送りたいか」という視点も、やめどきを考える材料になります。
不妊治療のやめどきを年代別に考える
年代で区切ると、気持ちが整理しやすくなる人もいます。ただし、どの年代でも「この年齢でやめるべき」という決まりはありません。
不妊治療のやめどき 30代で迷うとき
30代は、年齢の面では比較的、治療の成績が保たれている時期です。そのぶん、「まだ続けられるのに、疲れてしまった自分はおかしいのでは」と責めてしまう人がいます。
30代でのやめどきの迷いは、年齢よりも、心身の疲れや、治療を続ける暮らしの限界から来ることが多いようです。いったん休む、病院や治療法を見直す、といった選択肢を、ゆっくり考えてみてください。
不妊治療のやめどき 40代で迷うとき
40代は、先ほどの登録データのとおり、年齢とともに成績の差が大きく出てくる時期です。保険診療の上限(開始時43歳未満)もあるため、「いつまで」を意識せざるを得ない場面が増えます。
だからこそ、数字を見て焦る前に、主治医から自分たちの場合の見通しを聞き、ふたりで「何を大切にしたいか」を話し合う時間を持つことをおすすめします。数字は判断を助ける材料であって、答えそのものではありません。
二人目の不妊治療のやめどき
すでにお子さんがいて、二人目の治療をしている場合は、また別の難しさがあります。上の子の世話と通院の両立、「ひとりいるのに」という周囲や自分自身の目、上の子との時間を犠牲にしているような罪悪感などです。
二人目の場合は、上の子の年齢や暮らし、家計、働き方も含めて「家族としてどうしたいか」を話し合うことが大切です。「ひとり授かれたのだから、これ以上望んではいけない」ということはありません。同時に、「二人目をあきらめることは、わがままでも負けでもない」ということも、覚えておいてください。治療中のつらさそのものについては、不妊治療がつらいときの向き合い方も読んでみてください。
不妊治療のやめ時を、ふたりで話し合う進め方
気持ちの温度が違うまま、年齢や費用の話だけで進めると、すれ違いが深くなりがちです。話し合いの順番を工夫してみましょう。
話し合いの前に、ひとりずつ考えておくこと
いきなりふたりで結論を出そうとせず、まず各自が次のことを紙に書き出してみると、話が進みやすくなります。
- いま、治療をどう感じているか(続けたい気持ち・やめたい気持ち、両方書いてよい)
- 続ける場合に、どこまでなら無理なく頑張れそうか(期間、費用、回数、心身の状態)
- やめた場合に、いちばん不安なこと
- 子どもがいる暮らし、いない暮らしで、それぞれ大切にしたいこと
話し合うタイミングと言い方の例
治療の結果が出た直後や、疲れている夜は避け、お互いに余裕のある日に、時間を決めて話します。結論を出す日ではなく、気持ちを聞き合う日にするのがコツです。
言い方は、相手を責めずに、自分の気持ちから伝えます。
- 「やめたい」と切り出すとき: たとえば「続ける気持ちがなくなったわけではなくて、いまの自分は少し休みたいと感じている。ふたりでどうするか考えたい」と伝えてみる
- 「続けたい」と伝えるとき: たとえば「まだ頑張りたい気持ちがあるけれど、あなたの負担も知りたい。どのくらいなら無理なく続けられそうか教えてほしい」と伝えてみる
- 相手の気持ちを聞くとき: たとえば「あなたは、この先をどんなふうに思っている? まだ整理できていなくても、そのままで大丈夫だよ」と聞いてみる
意見が分かれたとき
どちらかが「やめたい」、もう一方が「続けたい」となることは珍しくありません。その場で決着をつけようとせず、「期限つきで続ける」「次の1回までは続けて、そのあとでまた話す」「しばらく休んでから決める」など、間をとる案も出してみてください。栃木県の案内にもあるように、医師の説明はできるだけふたりで聞くと、同じ情報をもとに話せて納得しやすくなります。
男性側にも、気持ちと負担があります。検査や結果の受け止め、仕事の調整、「自分が支えなければ」という思いなど、表に出さないまま抱えていることも少なくありません。落ち着いて見えるのは、つらくないからとは限りません。話し合うときは、妻側の気持ちと同じ重さで、夫側の「どれくらいしんどいか」「どうしたいか」を聞く時間をつくってください。ふたりの温度差については、妊活の温度差に悩むときのことも参考になります。
話し合いのたびに強い言葉の応酬になったり、片方が一方的に押さえつけられていると感じたりする場合は、第三者に入ってもらうことを考えてください。
区切りのつけ方:休む、ステップを変える、終える
「続ける」か「やめる」かの二択ではなく、その間にも選択肢があります。
治療を休む
疲れ切っているときは、期間を決めて休むことも選べます。休んでいるあいだに、体力や気持ちが戻る人もいれば、休んでみて自分の気持ちがはっきりする人もいます。休むのは、あきらめることとは違います。ただし、年齢によっては「時間が進む」ことも関係するので、休む期間は主治医とも相談しておくと安心です。
ステップや方法を変える
通院先や治療方針を見直したり、セカンドオピニオンを受けたりする方法です。「いまの治療を続けるのがつらい」のか、「治療そのものがつらい」のかを分けて考えると、整理しやすくなります。
治療を終える
終えると決めたときは、いきなり日常に戻ろうとしなくて大丈夫です。最後の通院の日や、ふたりで過ごす時間に、自分たちなりの区切りの形を作る人もいます。たとえば、これまで頑張ってきたことをふたりで振り返る、これまでの日々を言葉にして伝え合う、旅行に出かける、といった形です。決まったやり方はありません。
不妊治療をやめたあとの気持ち:喪失感との付き合い方
治療を終えたあと、ほっとする気持ちと、深い喪失感や空しさが同時に来ることがあります。どちらも、自然な反応です。
「やめてよかったのか」と揺れる気持ち
終えたあとも、「あのとき別の選択をしていたら」と思う日があるかもしれません。「やめてよかったのだろうか」と後悔する気持ちが出てくるのは、自然なことです。後悔しないために、気持ちを消そうとしなくて大丈夫です。それは、真剣に考えて決めた人ほど、起こりやすい気持ちです。決断した時点では、そのときのふたりにとって精いっぱいの選択だったと、少しずつ認めていけるとよいでしょう。
夫婦で悲しみ方が違うとき
悲しみ方は、人によって違います。妻が泣いているのに夫が落ち着いて見えると、「悲しんでいないのでは」と感じてしまうことがあります。けれど、感情を表に出さない人もいます。たとえば「私はまだ悲しい。無理に元気にならなくていいから、そばにいてほしい」と、してほしいことを伝えてみてください。
ひとりで抱え込まないために
周囲の何気ない言葉に傷つくこともあります。話したくないときは、話さなくて構いません。話したいときは、信頼できる人や専門の窓口に聞いてもらいましょう。
不妊治療のやめどきで迷ったときの相談先
迷いを、ふたりだけで抱え込まなくても大丈夫です。
性と健康の相談センター(自治体)
こども家庭庁の案内によると、都道府県などが設置する「性と健康の相談センター」では、不妊や不育症に関する相談ができるとされています(以前の「不妊専門相談センター」の事業に代わるものです)。医学的な相談や、同じ経験をした人とのピアサポートも案内されています。窓口の時間や内容は地域で異なるため、こども家庭庁の事業概要ページから、お住まいの地域の窓口を確認してください。
自治体の保健センター・こども家庭センター
気持ちの面の相談や、利用できる支援の案内を受けられることがあります。まずは電話で「不妊治療のことで悩んでいる」と伝えてみてください。
カップルカウンセリング・心理の専門家
「ふたりだけだと話し合いが進まない」「やめるかどうか、気持ちを整理したい」というときは、カップルカウンセリングや、心理の専門家に相談する方法もあります。結論を出す場ではなく、ふたりが気持ちを言葉にする手伝いをしてもらう場です。
いますぐ助けが必要なとき
「消えてしまいたい」「死にたい」という気持ちが強いときは、すぐに相談してください。厚生労働省のまもろうよ こころでは、電話やSNSの相談窓口を案内しています。よりそいホットライン(0120-279-338、24時間・無料)にも相談できます。命に関わると感じるときは、119番や、お近くの救急に連絡してください。気持ちの落ち込みが長く続くときは、産婦人科、心療内科、精神科などの医療機関にも相談しましょう。
相手との関係に安全の不安があるとき
治療のことで、暴言や暴力、お金や行動の制限を受けている場合は、ふたりで話し合うよりも、安全を優先してください。DV相談ナビ(#8008)などの公的な窓口に相談できます。
よくある質問
Q. 不妊治療のやめどきは、何歳が目安ですか。
決まった年齢はありません。2022年の日本産科婦人科学会の登録データでは、年齢が上がるほど1回あたりの出産に至る割合が下がることが示されていますが、個人差も大きいものです。20代でも、年齢だけで決めないことが大切です。保険診療の年齢・回数の上限や、心身の状態、暮らしの面も合わせて、主治医と相談しながらふたりで考えてください。
Q. 不妊治療を「やめたい」と思う自分は、あきらめが早いのでしょうか。
いいえ。心身の負担、費用、仕事との両立など、やめたい気持ちが出てくる理由はたくさんあります。やめたい気持ちが出てくることは、自然なことです。
Q. 夫婦で意見が違うとき、どうすればいいですか。
結論を急がず、各自の気持ちを聞き合うことから始めましょう。「期限つきで続ける」「しばらく休む」といった間の案を出すのも一案です。進まないときは、カップルカウンセリングなど第三者の力を借りる方法もあります。
Q. 二人目の不妊治療のやめどきは、一人目と違いますか。
上の子の世話との両立や、家計、働き方など、考える材料が増えます。「家族としてどうしたいか」を軸に、ふたりで話し合ってみてください。
Q. 治療を終えたあと、喪失感が消えません。どうしたらいいですか。
時間をかけて少しずつ和らぐ人もいれば、波のように繰り返す人もいます。自分を責めず、気持ちを話せる相手や相談窓口を持ってください。眠れない、食べられない、何も楽しめない状態が続くときは、医療機関にも相談しましょう。
まとめ:不妊治療のやめどきは、ふたりが納得できる形を探すこと
不妊治療のやめどきに、全員共通の正解はありません。
- 不妊治療のやめどきは、年齢と成績の目安に加え、心身の負担、お金、暮らし、ふたりの人生観を合わせて考える
- やめ時の話し合いは、結論を急がず、各自の気持ちを聞き合うことから始める。休む、方法を変える、終えるという幅広い選択肢がある
- 終えたあとの喪失感は自然な反応。ひとりで抱えず、窓口や専門家を頼ってよい
迷っているいまの気持ちも、これまで頑張ってきた時間も、どちらも大切なものです。ふたりが納得できる形を、焦らずに探していってください。